金継ぎを受け賜っています。お気軽にお問い合わせ下さい。

疵(きず)を愛でる、金属と土の邂逅

陶磁器の修復において、金継ぎの優美なラインとは対極にある、野趣あふれる技法があります。 それが「鎹(かすがい)継ぎ」です。
今回ご紹介する一品は、柔らかな白の器肌に、金属の鎹が打ち込まれた姿。 痛々しくも見えるその景色は、器が生き延びてきた時間の証であり、見る者の心を捉えて離さない「強さ」を宿しています。
・歴史が紡ぐ物語:将軍・義政と「馬蝗絆」
鎹継ぎの美意識を語る上で、室町幕府八代将軍・足利義政の逸話は欠かせません。
〈名碗・馬蝗絆(ばこうはん)の伝説〉 かつて義政が愛蔵していた龍泉窯の青磁茶碗にひびが入りました。代わりの品を求めて中国(明)へ送り返したところ、「これほど優れた青磁は今の中国にはない」として、鉄の鎹でひびを止めて送り返されてきたといいます。
義政は、その無骨な鎹の姿を「大きなイナゴ(蝗)が止まっているようだ」と見立て、その茶碗を「馬蝗絆」と名付けて愛玩しました。
単なる「補修」であった鉄の爪が、茶人の美意識によって「景色」へと昇華された瞬間です。この故事以来、日本には完璧なものよりも、欠けたもの・直したものに美を見出す精神が根付きました。
・現代に蘇る「古風な景色」
今回のお写真をご覧ください。 温かみのある白い釉薬のキャンバスに、一筋の貫入(ひび)。それを繋ぎ止める二つの鎹。
金継ぎが「傷を美しく装飾する」技法であるならば、鎹継ぎは「傷の存在を肯定し、構造として支える」技法と言えます。
素材の妙:現代の鎹は真鍮や銅など素材こそ変われど、陶器に金属を食い込ませる緊張感は、古来より変わりません。
余白の美:漆で線を埋め尽くすのではなく、点と点で支えることで、ひび割れそのものが描くラインもまた「景色」の一部となります。
・「鎹ファン」を魅了する理由
今日、あえて金継ぎではなく鎹継ぎを選ぶ愛好家(鎹ファン)が増えているのはなぜでしょうか。 それは、この技法が醸し出す「作為のない古風な佇まい」にあるのかもしれません。
華美に飾らず、ただ実用として再び使えるようにと施された手仕事。その素朴さが、現代の生活空間において、凛とした静寂とアンティークな深みを与えてくれます。

割れた器が再び時を刻み始めるための、鎹という選択。 この器もまた、二つの鎹によって新たな命を吹き込まれ、これから先も長く愛されていくことでしょう。 もし、お手元に大切にしたいけれど割れてしまった器があれば、一度「鎹継ぎ」という選択肢を通して、古の茶人たちが見た景色を再現してみませんか。

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