金継ぎの手順
・先に申し上げておいた方が良いかと思いますが、金継ぎとは金を流し込んで接着するのでは無く、そのほとんどが接着剤(漆・樹脂・合成樹脂)などで修復作業を行い、最終的に修復した箇所を金で蒔くという手順になります。
元来器物の修復作業のほとんどは漆器・蒔絵職人に依頼されたようで、いうなれば生地・下地の工程は違えども最終的な仕上げは漆器などで盛んな蒔絵と同じ仕上げとなります。
・これより名称として接着剤(漆・樹脂・合成樹脂)を樹脂とします。
・接着剤は漆・樹脂・合成樹脂など種類がありますが環境の違いや特質により凝固する時間の違いがあります。多少の違いはあるかと思いますがそれぞれに当てはめて作業を行って下さい。
・庵久では接着剤を「合成樹脂 エポキシ樹脂クリスタルレジン」を使用しています。◇は目安としてクリスタルレジンが凝固する日数や時間を表示しています。
1.破損した器物の準備
・しみ・汚れを取ります。
器物の断面や貫入(かんにゅう)・罅(ニュウ ひび)が汚れている場合には、先に取り除いたほうがよい場合が有り、市販されている色んな漂白剤を利用すると良いでしょう。漂白剤も汚れに応じて種類が有り一日から十日ぐらいまでつけ込むタイプが有り、気長に汚れを落としたほうがよいでしょう。
また、つけ込んだ後の洗い流しを充分行ったほうがよいと思われます。少なくとも一日は水中に漬け水を度々入れ替えるとか、鍋で水を貼り付け込んで沸騰させ塩基成分をとばすとか、これを充分行っていないと後で反応が出てしまいます。
※漂白債等の扱いに関してはその製品の取り扱い・説明をよく読み扱い方を習って下さい。危険性がありますのでよくよく注意して下さい。
※長年使い込んだ時代感のある小貫入の汚れ等は味があるものです。その汚れも漂白剤等につけ込めば消えて無くなりますので、そこは自己判断・自己責任において行うようにして下さい。
・器物を良く乾燥させます。
※乾燥させると白い粉が吹く場合がありますが、これは上記の漂白剤等が残っている場合があります。今一度洗い流しを行って下さい。
2.破損した器物の接着
・破片を繋げる
破片が三片以上有る場合は小さいもの順に繋ぎ合わせるようにします。
繋ぎ合わせるときは合わせ面が隙間無く密着するように合わせ、両破片が動かないように粘着テープや紐・輪ゴム等で仮止めします。
また、破片が多くて小さく仮止めに無理がある場合などは瞬間接着剤を使用します。仮止めを行い接着面の大きさにもよりますが、塗りつぶすので無く瞬間接着剤をある程度の間隔をおいて一滴ずつ流し込んで仮止めし破片が動かないようにします。瞬間接着剤も熱を加えるとより早く固まります。この方法で小さい破片から繋ぎ合わせ最終的に接着面がズレないように、全体が綺麗な状態に復元するよう心がけます。
・樹脂を流し込む
仮止めを行った後、繋ぎ目の所に樹脂を流し込むわけですが、流し込む前に器物を暖めておきます。これは樹脂等が熱によりさらさらの状態になりやすく接着面の隅々まで浸透して寄り強力な接着になるようにします。暖めるのはドライヤーや熱風機ライスターなどを使い、直火などの強い熱で器物を割らないように心がけます。
この流し込む時のコツとしては樹脂を暖めながら時間をかけ幾度となく流し込みます。接着部分に樹脂を塗ると時間がたつにつれ浸透し表面に隙間が出来ます。その隙間が出なくなるまで重ね塗りしより多くの樹脂を浸透させます。
この時の樹脂は接着部分よりはみ出てもかまいません。凝固した後でカミソリ等で取り除けば良いことで、それよりもいかに接着面に浸透させるかが寛容です。
とはいうものの余計な部分についてしまうと取り除くときに苦労する場合があります。細かい凹凸がある場合、凝固した樹脂を取り除くのは困難ですので、上薬が掛かっているような凹凸が無い面より浸透させるよう心がけましょう。
3.破損した破片が無い場合
・破片が無い場合の対処
繋ぎ合わせた場合に途中の破片が無くなったり、小さくて接着が不可能だったり、元々破片が無かったりで空洞が生じる場合何かを埋め込まなくてはなりません。修復業界では「呼継ぎ」と言って似たような別の器物の破片を持って来て埋め込む方法もありますが、ここでは接合剤パテを作り埋め込むようにします。
先ほどの樹脂におが屑や石粉などを混ぜて接合剤パテを造ります。陶器の場合には色の付いた石粉やセメントなどを使い、白い磁器の場合には出来るだけ真っ白い石粉を使うと良いでしょう。この接合剤パテは結局の所、生地の下地になり仕上げを済ませると見えなくなるので気を遣う必要は無いのですが、破損した生地に性質だけでも合わせる方が良いかもしれません。
・空洞になった部分に埋める
石粉を混ぜ合わせ粘土状になった接合剤パテを埋め込みますが、その前に埋め込む場所の断面には石粉を混ぜない樹脂を塗り充分に浸透させた後、接合剤パテを埋め込みます。そうすることにより破片の断面と接合剤パテの部分が寄り強力に凝固し一体化します。
※接合剤パテはすぐには凝固しないのでタレたり変形したりしますので注意が必要です。その場合は石粉の分量を増やしたり、型紙を利用したり、粘着テープで留めたりで工夫が必要です。
◇樹脂接合剤パテの凝固は最低24時間。
4.凝固した樹脂の下地
・凝固した樹脂の処理
接着部分に流し込み時に表面に残った凝固した樹脂はカミソリ等で削ぎ落とします。出来るだけ周りの面とフラットになるよう気をつけ余分に削ぎ落とさないようにしたいです。昔ながらの安全カミソリ(一枚刃)を使った方が刃全体が柔らかく器の見込みの中でもうまく削ることが出来ます。
・凝固した接合剤パテの処理
接合剤パテ等の凝固した樹脂については、堅い刃物で荒削りしグラインダーやリューターなどで削り出したいです。リューターなどの砥石にはゴム製の柔らかいものを削るのが有り市販されています。柔らかいもの用砥石でないと接合剤パテと破片の境目などを削るとき本体の方を傷つけてしまい仕上がりに影響します。
※同じ樹脂の素材で造った接合剤パテを利用し、円盤型の付け替え用の砥石として造っています。慣れてくると簡単に造れ、余った接合剤パテで良いので作り溜めしています。凝固した接合剤パテどうしが同じように削れて無くなる方が良いようです。
・凝固した接合剤パテの仕上げ
砥石で削った荒削り面をきめの細かいペーパーなどで仕上げをすると一層仕上がりが綺麗になります。
※周りの面や曲線凹凸に合わせて仕上げするのがコツです。
5.樹脂で造った下地の最終仕上げ
・接合剤パテの部分の仕上げ
凝固した樹脂を削り仕上げをしますが水洗いすると樹脂の表面に気泡や小さな傷などが残っている場合があります。その場合表面に樹脂を塗りますが、今度は樹脂に弁柄(ベンガラ)を良く擂りつぶして混ぜ込みます。いわゆる朱漆風に塗るわけですが、この時も暖めながら満遍なくムラが無いように塗ります。暖めることにより小さな気泡などに良く浸透します。破片どうしの接着面や接合剤パテの境など埋め込みが足りない所など注意しながら仕上げをしていきます。
※粉末の弁柄を良くすり込んで混ぜないと仕上がりに粒々が出てきます。弁柄の配合量は少し濃いめが良いようです。
◇仕上げ樹脂の凝固は最低24時間。
6.最後に金での蒔絵を施します
・金で蒔く下地を施します
先ほど使用した樹脂に弁柄を混ぜ込んだのを使用しますが、今度の弁柄の配合量は若干薄めにします。何故これも弁柄を混ぜ込むかと言いますと、その器を長年使用しますと金を蒔いたところが摩耗してきて下地の色朱色がのぞいてきます。それが味となるわけです。
弁柄を混ぜ込んだ朱色の樹脂を満遍なく塗り込みます。全体を塗り込んだ後、埃が立たない場所に保管します。若干、樹脂が固まるのを待ちます。樹脂の成分にもよるのですが、季節(気温や湿度の違い)によって時間が異なりますので経験が必要になります。
・やや凝固した下地に金を蒔く
目安としては常温で2~3時間置いて固まるのを待ち金を撒きます。柔らかい毛の筆を用意し毛先に金をまぶして樹脂の上に筆を叩くように蒔きます。(振り掛けるようにします。)やや余分に振り掛け余ったら筆で掃くように延ばしていきます。この時の金の付き具合は樹脂の表面だけに乗るような感じで沈み込むようでは樹脂の固まり時間が足りないようです。
◇金を蒔いた後の樹脂の凝固は最低24時間。
・線書きなどで金の蒔絵の紋様を入れる
先ほどは一面に金を蒔くやり方でしたが、さらにその上に線書きで紋様を描く蒔絵を紹介します。下地にはいろいろな金や銀の施し方法があり、樹脂に弁柄を練り合わせ金や銀などを少量混ぜ込み、朱の中にわずかな光を魅せ、その上に線書きで紋様を金で描く豪華な方法もあります。紋様には波状紋や雲海・唐草など器に応じて描くと良いでしょう。
◇金を蒔いた後の樹脂の凝固は最低24時間。
7.樹脂の凝固を強固なものにします
余分に付着した金などを掃き取るように、風などで飛ばないように貴重な金ですから金をためている容器に戻します。
また先のとがった刃物の剣先で余分に付いた蒔絵や汚れ、ラインの凹凸などを整える事によりすっきりとした仕上がりになります。最後にキメの細かい布で磨き上げます。
※多少の取り残しや付着した金などは、人体に安全な金ですから安心してご使用できます。