本日ご紹介するのは、お客様からお預かりした大切な「三島唐津の盃(さかづき)」の修復事例です。
誰しも、人からいただいた大切な器や、思い出の詰まったお気に入りの一客があるかと思います。しかし、毎日大切に使っていても、ふとした瞬間に傷ついてしまうことがありますよね。
今回のご依頼も、そんな切ないお気持ちからスタートしたストーリーです。
ご依頼の背景:諦めきれない、大切な引き出物の器
お客様からお預かりしたのは、ご友人の結婚式の引き出物として頂いたという「三島唐津の盃」です。
三島唐津ならではの、細やかな文様と温かみのある独特の風合い。見つめているだけで心が落ち着くような美しい器です。お客様も大変気に入られ、晩酌の時間を共にする相棒として大切に愛用されていたそうです。
しかしある日、不注意から縁(フチ)の部分を小さく欠けさせてしまいました。
「大切にしていただけに、本当に惜しいことをしてしまった……。でも、思い出の品だからどうしても諦めきれない」
そんな切実な思いを抱え、当工房に修復のご相談をいただきました。
【Before】修復前の状態
まずはお預かりした直後の状態をご覧ください。


盃のフチ(口をつける部分)が、横に長く、数ミリほどの深さでポロリと欠けてしまっています。
器の底(見込み)に描かれた愛らしい鳥の絵付けや、裏側の力強い土味(つちあじ)が素晴らしいだけに、この一箇所の欠けがとても悔やまれる状態でした。
口をつける場所でもあるため、このままでは危なくて使うことができません。
今回は、この欠けた部分を天然の漆で埋め、仕上げに金粉を蒔(ま)く「金継ぎ(きんつぎ)」の技法で修復を行っていきます。
【After】修復後の状態(金継ぎ完了)
職人が一工程ずつ時間をかけ、丁寧に漆を重ねて傷を埋め、最後に美しい純金粉で仕上げました。
新しく生まれ変わった盃の姿がこちらです。


いかがでしょうか。
欠けてしまっていた無骨な傷跡が、まるで最初からデザインされていたかのような、美しい「景色(みどころ)」へと昇華しました。
渋みのある三島唐津の暗めの器肌に、上品で華やかな金の輝きが美しく映えています。金仕上げの輪郭にわずかに施された波のようなニュアンスも、器全体の持つ作家性の高い雰囲気を損なわないよう、細心の注意を払って仕上げています。
おわりに:傷を「思い出」に変えて、再び日常の器へ
納品後、お客様からは「またこの盃で、大好きな日本酒を楽しむことができます。傷ついた前よりも、むしろ愛着が深まりました」と、大変嬉しいお言葉をいただきました。
金継ぎは、単に壊れたものを元通りにするだけの修理ではありません。
器がたどってきた歴史や、持ち主様の「大切にしたい」という想いを、金という美しい線で包み込み、新しい価値を与える日本の素晴らしい伝統文化です。
引き出物としていただいた当時の思い出に、さらに「金継ぎをして遺した」という新しいストーリーが加わったこの盃。これから先も、お客様の晩酌の時間を優しく彩り続けてくれることを願っております。
もし、ご自宅に「欠けてしまったけれど、どうしても捨てられない」という大切な器がございましたら、ぜひお気軽に当工房までご相談ください。
あなたの大切な思い出を、もう一度使えるカタチにするお手伝いをさせていただきます。


